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24. エピローグ

 僕こと御手洗旬が同級生の女子から好かれることなんて、大学一年生の春を迎えるまで生きてきた十八年余りの中で、たった一度だけあったということは認めざるを得ないだろう。
 内向的な性分が根っこにあり、いくぶんシャイな気質が幹となり、まぎれもなく口下手で人見知りな性格が葉となって、陰キャの花が咲いている——そんな僕に恋人という奇跡のような存在が現れたからだ。

 ましてや、現実世界で女子から《推される》ことなど、自分が普段書いているようなファンタジー小説の外でも起こってしまったがゆえに、僕は高校を卒業しても依然としてWeb小説家として生きることができているのだという、自己肯定感に満ちあふれた自負を抱いている。

 今こうして大学の講義室にいても——

「シュンちゃん! 売店いこーぜ」

 長身にしてイケメン、長めの黒髪を頭の後ろで結わえた僕の親友は、屈託なく笑って僕に声をかけてきた。

「うん」
 僕が短く答えて席を立ち上がると、知春の後ろから、軽くウェーブのかかったセミロングの茶髪の女子が手を振りながら講義室のドアからこちらへ近づいてきた。
 彼女は顔いっぱいに《楽》という文字を表現して、
「トモぉ! 御手洗くんも!」
 と呼びかけてきた。
「おせーよ、リカ」
「だーって、法学概論のセンセー、話がすっごい長いんだもん」

 明るく元気な陽キャの里香は意外にしっかり者で、「この世を支配しているのは法律だから。法律しか勝たん」という彼女独自の考えに基づいて法学部を選んだ。
 そんな彼女の相方である知春は、高校のときは僕と同じ文学部に進学しようとしていたけれど、里香の「トモには経済力と生活力をしっかりつけてもらうから」という一声で商学部へ進むことに。
 嫌々かと思いきや、知春は特に気にした様子でもなく、あっさりと進路を変更した。
 本人曰く、学部自体には元からそれほどこだわりはなかったらしい。

「おっ。シュンちゃん、お出ましだぜ」

 知春の視線の先、講義室の出入口のほうを見る。
 ややクセのある栗色のロングヘアをサイドテールにしているその女子は、明るく澄んだ両目をこちらに向けて、ふわりと笑った。

「おーい、まーちゃあん!」
 里香が手を振ると、真莉愛は僕らのほうへ向かってきた。
 そして彼女は、
「これからどこか行くの?」
 と誰にともなく訊ねた。
「売店に行こうって話してたんだよ。マリアちゃんも行くっしょ?」
 知春が言うと、真莉愛は僕のほうに視線を向けた。
 僕は黙ってうなずく。

「おーし、行こうぜ!」
「トモ、こないだゲームで負けた分、ジュース奢りだかんね」
「ああ? なんだそりゃ、よくわかんねーな」
「とぼけんなし!」
 知春と里香はいつもの調子で騒ぎながら、先に講義室を出る。

「僕らも——
 言いかけたところで、真莉愛が不意に顔の目の前まで迫ってきた。
「新作の企画書、今日提出するんでしょう?」
「あ、うん。今井さんにメールで送らなきゃ」
「配信終わったら、旬くんの部屋に行っていい?」
「あー……配信は夕方六時からだよね?」
「うん。今日のは一時間くらいだから、そのあとになるかな」
「わかった。でもたぶん、夜中まで企画書にかかりっきりだと思うよ?」
「もちろん、ジャマはしないから。旬くんがサボってエッチな動画観たりしないか見張ってるだけ」
「いや、観ないよそんなの!」
「観ないの?」
「え? いや、そんな……えっ?」
「ほんっと旬くんって、内向的でシャイで口下手で、人見知りでスケベな変態陰キャ大先生だよね」
「いや、なんかパワーアップしてない?」
「ふふふっ」
 真莉愛は軽やかに笑った。
 そして僕の手を取る。
「行こっ!」

 もしも君が僕のことを推すのなら——この喜びを抱きしめていたい。
 もしも君が僕のことを好きでいてくれるのなら、この幸せを噛み締めていたい。
 そして僕も、君のことを推し続けるし、好きだという気持ちを手放さないつもりだ。
 そう、僕は——
 この先もずっと、真莉愛のことを離さないでいようと思っている。

(了)

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