14. 告白
「ひとめぼれって、信じる?」
真莉愛の問いに、思考が一瞬止まった。
「どうかな……どうしたの、急に」
「わたしね、一年生の頃からずっともやもやしてて。自分が感じたこととか考えたことが、周りとズレてるなって思うことがよくあって。思ったことをそのまま話すと、みんな『よくわかんない』みたいな顔をするんだよね。不思議ちゃんとか言われたりしてさ。それでわたし、自分の本当の気持ちって誰にも話さないほうがいいのかなって思うようになっちゃって」
真莉愛はうつむき加減に話す。
「だから、学校のみんなの前ではなるべく普通にして、無難に過ごしてきたんだよね。りっちゃんだけはちょっと特別かな。でもさ、もっと特別な人がいて」
それがキミ、と真莉愛は笑いながら僕を見つめる。
「初めて会ったとき、自分でもなんでかわからないんだけど、キミにだったら何を話しても大丈夫かもしれないって思ったの。それから一緒にいろいろと話していくうちに、やっぱり自分の直感は正しかったなって思うようになってさ。だから、初めて会った瞬間からキミに惹かれたのはきっと必然だったんだよね」
真莉愛は立ち止まった。
「だからわたしは、ひとめぼれを信じてる」
真っすぐに僕の両目を捉えてくる。
「旬くんは?」
どこか、腑に落ちた。
彼女の言葉は、僕の言葉でもあった。
ずっと頭の片隅に居座っていたものが、はっきりした気がする。
「僕は——」
僕のこの気持ちは、ふみふみに向けるような《推し》への気持ちじゃない。
きっと彼女も、白金式部への気持ちとは違うはず。
学校の廊下で出会ったあの瞬間から、僕の本当の気持ちはすでに真莉愛に向いていたんだ。
「僕も信じてるよ、ひとめぼれ」
真莉愛は目を見開く。
彼女の長いまつ毛が揺れ動いていた。
「僕は、真莉愛にひとめぼれしたから」
心臓が暴れ回っている。
僕は彼女の両手を取って、力を込めた。
「真莉愛のことが好きだ。付き合おう」
声が震えていたかもしれない。
心臓が口から飛び出そうだ。
真莉愛は顔を赤らめて「わたしも」と声を漏らす。
「旬くんのことが好き。付き合ってください」
頭の中が真っ白になる。
それはつまり、僕たちは——。
「これでもう、両片想いじゃなくなったね」
彼女の艶やかな唇の奥から出てきたその言葉で、僕はもうダメだった。
真莉愛を抱きしめる。
ふわりと軽やかな彼女の香り。
想像していたよりも細い体躯。
そして彼女も、ゆっくりと僕の背中に両腕を回してきた。
「ずっと離さないでね?」
僕の耳元に囁いてくる。
歓びが全身を駆け抜けて、僕は身震いした。
突然、口笛が鳴り響いた。
僕たちよりも少し年上らしい、見知らぬ男子数人から囃し立てられる。
僕と真莉愛は川と反対方向、ショッピングモールに近いほうへと走った。
通りかかったカフェに入り、僕はアイスコーヒーを、真莉愛はアイスラテを注文する。
そして丸テーブルに並んで座って、ひと息つく。
彼女とうまく目を合わせられない。
さっきの告白は、本当に現実だったのだろうか。
いまだに実感が湧かない。
真莉愛は僕の膝の上に手を乗せてきた。
「これも、旬くんが初めて」
「えっと……一緒に歩くのが?」
ううん、と彼女は首を横に振る。
「男子と付き合うのが」
——それは、僕だって同じだ。
女子と付き合うどころか、告白することさえ人生で初めてのことで、これから何をどうしたらいいのか見当もつかない。
「真莉愛は本当に僕でいいの? 僕なんて、こんなパッとしない陰キャだけど」
「わたしは、内向的でシャイで口下手で、人見知りでスケベな陰キャの旬くんがいいの」
「僕、そこまで言ってなくない?」
二人で同時に吹き出してしまう。
「旬くんこそ、わたしでいいの?」
「もちろん。真莉愛しか勝たん、ってやつだよ」
「だったら、旬くんの部屋にあるエッチな本、全部捨ててくれるよね?」
「えっ? それは、えっと……」
「やっぱスケベじゃん」
「あ、えっ?」
「ふふっ。でも、そんなところも嫌いじゃないよ」
彼女は柔らかく微笑んだ。
丸テーブルの上で、僕と真莉愛のスマートフォンがほぼ同時に振動した。
里香からのメッセージが二通続けて送られてくる。
『ごめーん、トモやっぱムリっぽいから今日はこれで解散でいいかなー』
『まーちゃんも御手洗くんもホントにごめんねー』
僕も真莉愛もすでに理解しているので『オッケー、お大事にね』とだけ返しておいた。
そしてすぐ後に、知春から僕だけにメッセージが届いた。
『わるいシュンちゃん、ガチで腹痛くなったから先帰らせてもらうわ』
演技だと思ったら、どうやら本当だったらしい。
知春にメッセージを返す。
『トモ、だいじょぶ?』
『コーラ飲みすぎたわ(泣)』
『お大事に』
『あれからどうなったか、あとで教えてくれよな!』
『おけ』
その後、知春からの返信はなかった。
「穂坂くん、本当に大丈夫かな……」
「トモのことだから、たぶん大丈夫だと思うけどね」
「だといいけど。ねえ旬くん、行ってみる?」
思わぬ経緯でカフェに行き着いたけれど、僕たちは書店に向かう途中だったということを思い出す。
「そだね、行こっか」
「旬くんと他にも話したいことあるんだ、わたし」
ふふっ、と彼女は微笑む。
初めて会ったあのときのように。
僕と真莉愛は手をつないで、カフェをあとにした。
真莉愛の問いに、思考が一瞬止まった。
「どうかな……どうしたの、急に」
「わたしね、一年生の頃からずっともやもやしてて。自分が感じたこととか考えたことが、周りとズレてるなって思うことがよくあって。思ったことをそのまま話すと、みんな『よくわかんない』みたいな顔をするんだよね。不思議ちゃんとか言われたりしてさ。それでわたし、自分の本当の気持ちって誰にも話さないほうがいいのかなって思うようになっちゃって」
真莉愛はうつむき加減に話す。
「だから、学校のみんなの前ではなるべく普通にして、無難に過ごしてきたんだよね。りっちゃんだけはちょっと特別かな。でもさ、もっと特別な人がいて」
それがキミ、と真莉愛は笑いながら僕を見つめる。
「初めて会ったとき、自分でもなんでかわからないんだけど、キミにだったら何を話しても大丈夫かもしれないって思ったの。それから一緒にいろいろと話していくうちに、やっぱり自分の直感は正しかったなって思うようになってさ。だから、初めて会った瞬間からキミに惹かれたのはきっと必然だったんだよね」
真莉愛は立ち止まった。
「だからわたしは、ひとめぼれを信じてる」
真っすぐに僕の両目を捉えてくる。
「旬くんは?」
どこか、腑に落ちた。
彼女の言葉は、僕の言葉でもあった。
ずっと頭の片隅に居座っていたものが、はっきりした気がする。
「僕は——」
僕のこの気持ちは、ふみふみに向けるような《推し》への気持ちじゃない。
きっと彼女も、白金式部への気持ちとは違うはず。
学校の廊下で出会ったあの瞬間から、僕の本当の気持ちはすでに真莉愛に向いていたんだ。
「僕も信じてるよ、ひとめぼれ」
真莉愛は目を見開く。
彼女の長いまつ毛が揺れ動いていた。
「僕は、真莉愛にひとめぼれしたから」
心臓が暴れ回っている。
僕は彼女の両手を取って、力を込めた。
「真莉愛のことが好きだ。付き合おう」
声が震えていたかもしれない。
心臓が口から飛び出そうだ。
真莉愛は顔を赤らめて「わたしも」と声を漏らす。
「旬くんのことが好き。付き合ってください」
頭の中が真っ白になる。
それはつまり、僕たちは——。
「これでもう、両片想いじゃなくなったね」
彼女の艶やかな唇の奥から出てきたその言葉で、僕はもうダメだった。
真莉愛を抱きしめる。
ふわりと軽やかな彼女の香り。
想像していたよりも細い体躯。
そして彼女も、ゆっくりと僕の背中に両腕を回してきた。
「ずっと離さないでね?」
僕の耳元に囁いてくる。
歓びが全身を駆け抜けて、僕は身震いした。
突然、口笛が鳴り響いた。
僕たちよりも少し年上らしい、見知らぬ男子数人から囃し立てられる。
僕と真莉愛は川と反対方向、ショッピングモールに近いほうへと走った。
通りかかったカフェに入り、僕はアイスコーヒーを、真莉愛はアイスラテを注文する。
そして丸テーブルに並んで座って、ひと息つく。
彼女とうまく目を合わせられない。
さっきの告白は、本当に現実だったのだろうか。
いまだに実感が湧かない。
真莉愛は僕の膝の上に手を乗せてきた。
「これも、旬くんが初めて」
「えっと……一緒に歩くのが?」
ううん、と彼女は首を横に振る。
「男子と付き合うのが」
——それは、僕だって同じだ。
女子と付き合うどころか、告白することさえ人生で初めてのことで、これから何をどうしたらいいのか見当もつかない。
「真莉愛は本当に僕でいいの? 僕なんて、こんなパッとしない陰キャだけど」
「わたしは、内向的でシャイで口下手で、人見知りでスケベな陰キャの旬くんがいいの」
「僕、そこまで言ってなくない?」
二人で同時に吹き出してしまう。
「旬くんこそ、わたしでいいの?」
「もちろん。真莉愛しか勝たん、ってやつだよ」
「だったら、旬くんの部屋にあるエッチな本、全部捨ててくれるよね?」
「えっ? それは、えっと……」
「やっぱスケベじゃん」
「あ、えっ?」
「ふふっ。でも、そんなところも嫌いじゃないよ」
彼女は柔らかく微笑んだ。
丸テーブルの上で、僕と真莉愛のスマートフォンがほぼ同時に振動した。
里香からのメッセージが二通続けて送られてくる。
『ごめーん、トモやっぱムリっぽいから今日はこれで解散でいいかなー』
『まーちゃんも御手洗くんもホントにごめんねー』
僕も真莉愛もすでに理解しているので『オッケー、お大事にね』とだけ返しておいた。
そしてすぐ後に、知春から僕だけにメッセージが届いた。
『わるいシュンちゃん、ガチで腹痛くなったから先帰らせてもらうわ』
演技だと思ったら、どうやら本当だったらしい。
知春にメッセージを返す。
『トモ、だいじょぶ?』
『コーラ飲みすぎたわ(泣)』
『お大事に』
『あれからどうなったか、あとで教えてくれよな!』
『おけ』
その後、知春からの返信はなかった。
「穂坂くん、本当に大丈夫かな……」
「トモのことだから、たぶん大丈夫だと思うけどね」
「だといいけど。ねえ旬くん、行ってみる?」
思わぬ経緯でカフェに行き着いたけれど、僕たちは書店に向かう途中だったということを思い出す。
「そだね、行こっか」
「旬くんと他にも話したいことあるんだ、わたし」
ふふっ、と彼女は微笑む。
初めて会ったあのときのように。
僕と真莉愛は手をつないで、カフェをあとにした。
(つづく)
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